気泡
今回はちょっと真面目な話。

ダイバーなら誰しもが注意しなければならない減圧症(潜水病)について。

かなり広い範囲のテーマになるので、
今回はその中でも「運動」との関係について意外な実験結果をご紹介。

まず、減圧症についてですが…、はい、ダイビングマニュアルを参照して下さいって(笑)。

いやいや…、とってもざっくりと説明すると下記のようになります。

「減圧症は、体内の血管内で窒素の気泡が血栓になることによって発症する。」


陸上では口から吸った窒素が血液中に溶け込むことの無いのですが、水圧がかかった状態だと、その圧力(深度)に応じて、少しずつ窒素が血液中に溶け込みます。

深く潜れば、潜るほど、たくさん溶け込み、浅く浮上すると血液中に溶け込める量が少なくなってきます。
そして、深度下である量を超えて窒素が溶け込んだ場合に、水面まで浮上した際に溶け込みきれない窒素が、血管内に気泡という形で出てくること。

う~む、ちょっと難しい話になりますね。

ちょうど、中途半端に生温くなったビールがやたらと泡立つことを想像すればいいかも。これは本気で美味しくない・・・。

実際はボコボコとデカイ泡ができるのではなくって、最初はとっても小さなマイクロバブルという泡がポコポコできる。

これなら別に細い血管中でも流れるので問題無し。

ただ、この小さな泡(マイクロバブル)がやたらと血管中にできてしまうと話は別である。
数が増えてくると、当然ながら泡同士ぶつかり合う。
そしてデカイ泡が形成されて、細い血管の中で血栓になってしまい減圧症が発症するのだ。


本題の運動との関係ですが、ダイビング直後の激しい運動は減圧症のリスクが高くなると言われます。

こちらはどの指導団体のマニュアルなどにもはっきりと載っている内容。
だいたい、30分ぐらいは激しい運動は控えたほうがいいらしい。

運動することによって、静脈の血流量が増し、マイクロバブル同士が衝突する可能性が高くなる。
ようするに、小さな泡がくっついてデカイ泡になりやすいということですな。

このことから、「スキューバダイビング=運動しないほうがいい」と思っている人が多いのではないでしょうか。


では、ダイビング前の運動については?

潜水前の運動については、減圧症予防に明確に効果があるという下記のような実験結果が出ています。

→ラットによる実験では、潜水20時間前に運動させると減圧症による死亡が著しく減少
→潜水24時間前に5分間のランニングを8回すると平均75%の気泡を減少
→潜水の2時間前に45分のランニングにより、気泡の数が顕著に減少
※参考文献:DANジャパン会報 Alert Diver Vol.44(2010 Spring)

このメカニズムについては、まだ解明されていないのですが、一説だと、窒素の気泡を生じさせるもとになる「ガス核」が運動により現象するのではないかということ。
「ガス核」というのは、血液中の老廃物などがもととなるので、これが運動することによって新陳代謝により体外に排出される。
つまり、気泡ができる原因ともなる「ガス核」を減らすことによって、減圧症になりにくくなるのだ。

これってかなり意外なことじゃないですか!

僕自身、趣味がマラソンで、毎朝の仕事前のランニングを欠かせません。
ダイビングして、こんなに運動して大丈夫か!?って他のインストラクターからもよく言われてましたが、実はこの朝のランニングも減圧症予防に一役買っているのではないでしょうか。

また、日々窒素を溜め込んでいるインストラクターが一般のダイバーに比べて、減圧症になりにくいと言われるのも、ボート上でのアンカーリングの準備や、ゲストの器材の準備など、ダイビング前にかなりの運動をしていると言えます。


となると、ゲストの皆さん。

「ダイビング前の準備は積極的に参加して、体を動かすといいみたい」ですよ。

さらには、ほとんど海で見たことはないけど、

「ダイビング前に準備運動するのもそれなりに減圧症予防にも効果あるみたい」ですね。

なるほど~って思いませんでしたか!


余談になりますが、安全停止中の中程度も運動も減圧症予防に効果あるみたいですよ~。

なんでも最近の研究によると、運動により血流が増加し、より窒素の排出が促進されるそうな。

上級者なんかは上手く中性浮力をキープしながら、5mラインを泳いで船に戻ったりするけど、これは減圧症のリスクを減らすのに効果があったんですね。